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特定非営利活動法人
ふくしま再生の会

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若者の力、シニアの経験を世界の被災地「ふくしま」へ

ふくしま再生の会

<活動報告>

2012年4月

3月31日-4月1日 報告:小川唯史

雨の長泥交差点(クリックで拡大)
モニタリングポスト(クリックで拡大)
ボトル内の代掻き(クリックで拡大)
深度分布データ(クリックで拡大)

●無人の村を視察

相変わらず週末になると天候が崩れます。3月31日はかなり強い雨になりました。

天候が悪い上に、今回は初めて参加する方が多かったので、31日は村内を車でまわって初めて参加する方に村内の様子を見てもらいました。初めて飯舘村を見る人の多くがショックを受けるのは、農地や建物は普通にあるのに誰もいない無人地帯だということです。沿岸部の津波被災地域のように激しく破壊された跡はどこにも見られませんが、人影がなく、暗くなっても家々に灯が点ることはありません。その様子がなんとも不気味だというのです。これから夏になると、作付されずに荒れた農地が目立つようになるでしょう。

●代掻きによる除染をめぐって

夕方から宗夫さん宅に集まり、春から夏へかけて農地の除染実験を行う方法について議論しました。
農地の除染方法には、

  1. 表土のはぎ取り
    (固化剤を使った剥ぎ取りや凍土剥ぎ取り
  2. 反転耕(天地返し)
  3. 代掻き
などの方法があります。この中でわれわれが議論を重ねてきたのが「代掻き」による除染です。

代掻きによって除染できるということを理解するには、土中に浸みこんだセシウムの状態について知る必要があります。
セシウムは土壌の中の粘土成分に強く吸着しています。このため、土の中ではセシウムと粘土を一体と考えることができます。つまり土壌の中から粘土成分を分離して除去すればセシウムを除去することができるというわけです。
代掻きは水をはった状態で土壌を激しく撹拌します。これによって土壌の粒が水の中に浮きますが、粒の大きな重いものから先に沈殿していきます。粘土成分は粒が小さいのでなかなか沈殿しません。したがって、まだ水が濁っている間に、この水を流し出せば粘土成分を除去することができます。あるいは、粘土が完全に沈殿するまで待って水を抜けば、表面にセシウムを含む粘土層を作ることもできます。

しかし、代掻きには不安要素があります。

以前に村内の農地の土壌サンプルを採取し放射能の深度分布を調査したというご報告をしました。この調査で、多くの農地では表面から5cmまでの深さにセシウムが集中しているということがわかりました。

代掻きをするときには水をはって柔らかくした土の上でトラクターなどの重い農機を使うため、撹拌する深さが15cm~20cmになってしまいます。つまり5cmの深さに集中しているセシウムを、より深い層にまで拡散させてしまう恐れがあるわけです。沈降速度の差で粘土を分離するとしても、100%分離できるわけではないでしょうから、どうしても深い層にセシウムが残ってしまうのではないかという危惧があります。

この問題をめぐって、すでに何週間かの議論を重ねてきました。

●そういう「手」があったか

これが「田車」(クリックで拡大)
こちらはエンジン付き(クリックで拡大)

議論を重ねるうち、理想的なのは水をはったうえで表層の5cmの土壌のみを撹拌して洗い流してしまうということではないかということになってきました。しかし、問題はそれをどうやったら実現できるか、です。
水の上に浮きながら地面をひっかくような機械を開発してはどうか、など、いろいろな案が出されてきました。
そして、この日の議論で宗夫さんから画期的なアイデアが出されたのです。

「田車を使ってみたらどうか」

農業を知らない者が多いので、最初は「?」マークが宙に浮かんだ状態だったのですが、「田の草取りに使う」と聞いて、やっとわかりました。田圃の中を手押し車のように押して進む農機具でした。
とりあえず、さっそくこれを試してみようということになり、その日の会議は終わりました。

●すぐにやってみた

田車戦隊(クリックで拡大)
ブラシ戦隊(クリックで拡大)
泥水が美しい(クリックで拡大)
線量を簡易計測(クリックで拡大)

再生の会のいいところは、専門家が各専門領域を横断し、さらにそこに地元の農民が加わって議論して知恵を出し合い、アイデアが浮かんだらすぐに試してみる、というところです。
田車を使った除染は、翌日さっそく実験されました。
宗夫さんの田圃の一部を5m×10m程度の大きさに区切って土手を作り実験田とします。
まず最初に草を取り除きます。
そこに水を引き入れ、だいたい5cmほどの深さに水をはります。
ここでいよいよ田車の登場です。
実は、最近では田車による田の草取りというのはあまり行われていないそうです。近所の菅野永徳さんがエンジン付きのものを持ってきてくれましたが、これも使っていなくて、すぐには動かせない状態でした。
ところが宗夫さんの物置からは手動の田車が5台も出てきたのです。宗夫さんもエンジン付きのものも持っていたそうですが、そっちは捨ててしまい、手動のものだけはとってあったということでした。ラッキー!

●かなり期待できる

枯れ草を除去した後、例によってアナクールで土壌サンプルを採取し、その後水を引き込み田車を押し引きして土を撹拌しました。
これはかなり楽しい作業。
水の中に泥が煙のように気持ちよく舞い上がります。
これを一面に一通りやったあと、水の注入を止め、テニスコートブラシで残った泥水を掃き出します。実はこのテニスコートブラシは、春の融解凍土掃出し作業に備えて調達していたもの。融解凍土掃出しは断念しましたが、思わぬところで役に立ちました。
これを3回繰り返しました。そして水を掃き出すごとに測定器で放射線量を測定しました。その値は以下の通りです。

  1. 1回目:1,200~1,400cpm
  2. 2回目:800~900cpm
  3. 3回目:500~700cmp

この値には、周辺からの放射線も含まれていますので、土壌からの放射線はもっと大きく下がっているのではないかと、かなり期待しています。3回の作業完了後にもアナクールで土壌サンプルを採取しましたので、正式の分析結果が出たらご報告します。

【追記】土壌分析結果

田車を使った除染前後の土壌分析結果が出ましたので追加します。
ねらい通り表層5cm程度をかき出したと考えられる結果です。

田んぼの表層かき出し除染 セシウム除染結果(PDF 660KB)

4月13日-15日 報告:森本晶子

実験田の除草(クリックで拡大)
水をはる(クリックで拡大)
2つに区切る(クリックで拡大)
まず全体をならす(クリックで拡大)
激しく撹拌(クリックで拡大)
こちらは静かに撹拌(クリックで拡大)
ブラシで掃出し(クリックで拡大)
前回実験田で追試(クリックで拡大)
土壌サンプル採取(クリックで拡大)

●4月13日:代掻き実験の準備

今回の作業は、前回試みて良い除染効果を上げた、田車による除染の追試をすることと、新たに代?き機を使って除染実験を行うことでした。
田車による除染の作業については、前回の報告をぜひご覧ください。
前回の結果は見ての通り、表土に存在していたと思われるセシウムの大半が、除去されることがわかり、我々も大いに気を良くしたものでした。
今回は、イノシシに荒らされた田で田車による除染の追試を試みることと、同じ田でトラクターを使って本格的代?き(水と表土の掻き混ぜ)を行うことが目標です。
トラクターを使う代掻きは、田車を使うより大規模にできますが、深く土を撹拌するので、表面だけに有ったセシウムを、下の方まで拡散してしまう恐れがあります。
そこで、今回は、同じ場所の土壌を使って両者を同時に行い、その除染効果を比較しようという試みです。
13日の作業は、実験田の枯れ草除去および、田を二つに区切り、周りに土盛りをして、田に水を入れ、明日の代?きのための準備をすることです。
絡みついて面倒な枯れ草を除去した後、例によってアナクールで土壌サンプルを採取し、その後水を引き込みます。この田は、イノシシが荒らした後なので、土がでこぼこになっているため、均すのが難しそうです。

●4月14日:トラクターで代掻き

14日は、朝からあいにくの雨の中、昨晩からの雨で脆弱になった囲いを補強し、水を流す側の水路を作って仮止めし、水を入れます。
初めに、農家の菅野さんが、ロータリーおよびローラーを使って、田の中の土を柔らかく均し、水と掻き混ぜます。機械でやるのは、さすがに豪快だし、早い早い。
その後すぐに、表面の水を下の田に流し込みます。凄い勢いで、泥水が流れ出しました。直後の田は、長靴で入るのは難しいぐらい、水深が深くなっています。

次は、隣の田を田車を使ってかき混ぜます。田車は、もともと草抜きするための道具ですが、ここでは、表土を水に拡散させる目的に使います。
かき混ぜた後は、テニスコートブラシで水を下の田に押し出します。この作業を3回繰り返しました。
水が、減って表土が出てきたところで、表面の放射線測定と、土壌サンプルを採取します。この日は、これでおしまいです。

●4月15日:前回の実験田で追試

15日は、前回行った実験田で、田車を使った2回目の作業です。前回の作業で表面のセシウムの濃い層はだいたいかき出せたことを確認しましたが、まだ表面にやや濃い層が残っているので、これをかき出せないかという実験です。
初めにホースで脇の流れから水を導入します。
次に田車掻き、そして、ブラシで水を流し出す作業。これを3回繰り返します。
上側の水が澄み始めるまで水を流した後、水の流入を止めて、ここで水が引くまで待つ間に昼食。

●土壌サンプル採取

午後は、前回流しこんだ泥水溜めの乾いた土、凍土剥ぎ取り除染後の土などの土壌サンプルを採取しました。
先ほど追試した田の土壌表面の放射線量も測定しましたが、前回とあまり変わりが有りませんでした。たぶん、下からの放射線が少ないと周囲から来る放射線が影響してしまうからでしょう。だから、土壌サンプルをとって調べるのが重要です。
土壌サンプルの放射能測定結果が出たらご報告します。

4月14日 報告:土器屋由紀子

ハイボリ(クリックで拡大)
フィルター交換作業(クリックで拡大)
簡易線量測定(クリックで拡大)

●エアロゾル観測続報

3月にご報告したように、宗夫さんのお宅の軒下にローボリウムエアサンプラー(ローボリ)を据付けて、滞在時にポンプを回していただいていますが、3月20日にハイボリウムサンプラー(ハイボリ)を借用できたので、現在牛舎前でサンプルを採っています。
ローボリとハイボリの違いは吸引する空気の量ですが、ハイボリは四角な石英繊維フィルター(目詰まりをしない、不純物の少ないフィルターですが、1枚約1000円とかなり高価)を使い、吸引量も10倍です。
3月20日から毎分500L程度の空気を吸い込んでいます。これまでに3回フィルター交換をお願いして3個のサンプルが取れています。
鉛の上にポリ袋のサンプルを乗せ、放射線モニターで測定してみました。バックグランドが高いのとバラツキが大きいのであまりはっきりせず、殆どバックグランドと同じ値でした。
フィルターに空気を採取した量は4000~7000立米(ヒトが1日で呼吸する量の200-350倍です)。検出されても心配ない値であることは確かだと思います。ゲルマニウム検知器による詳しい分析は測定器の順番待ちで、結果が出るのは5月になる予定です。
なお、この観測は装置を長期間借用できることになり、1週間毎、1年間のデータが採れそうです。
この次は詳しいデータをご報告したいと思っています。

4月28日 報告:森本晶子

●除染実験田を拡大

エンジン付き除草機(クリックで拡大)
格段に効率アップ(クリックで拡大)
除染する田んぼ(クリックで拡大)

今回は、前回からの田車を使った除染の拡大と、後に続く代掻き機を使った除染の準備等、そこに稲の作付けを始めるための前段階の作業です。
菅野さんの広い田んぼを3つに分けて、A、B、Cとすると、Aは前回田車掻きを報告した小さな田んぼです。今回は、主にBの田んぼの田車除染です。ここには、昨年夏に表土を一定量剥いで、積んであった土があるので、まずそれを袋詰めにして他所に移します。
前日から来ていたメンバーが草引きを済ませていたので、まず始める前に、Bの土壌の放射線分布測定のための試料採取を行いました。表面から2㎝ごとに、16㎝の深さ分の土を分離採取して放射能測定をします。
同時に、そこに水を導入するための土手作りと、田車で掻きまわした泥水を流す水路を作り、その後、Bに水を入れ初め、新しく使う自動式田車(エンジン付除草機)の試運転です。前回までは、手押しの田車をごろごろと前後に動かすのに力を大分使うので疲れましたが、今回のは勝手に動いてくれるので大分楽です。この日は試運転程度で終了。

●飯舘村の遅い春

朝もやの霊山町山戸田(クリックで拡大)
こごみ(クリックで拡大)

福島駅から飯館村へと向かう道筋では、桜が満開。飯館村では「お花見だぁ」と思っていたのに、現地ではまだほとんど咲いていなかったのは残念でした。やはり標高の高い飯舘村は春も遅いのです。これを書いている今頃は、満開なんだろうな。
しかし、この日に泊った「福島ふるさと体験スクール」周辺は、春爛漫の様子でした。翌早朝に、宿の御主人に教えてもらった「こごみ」の群生地に、こごみ採りに出かけました。
周囲には朝もやがかかっていて、まさに幻想的な田舎の風景に感動。朝もやの風景をおさめたカメラには、はからずも3羽のシラサギ(?)が写っていました。

●ようやく農繁期が来た

5ひきの朝食(クリックで拡大)
除草機2台で撹拌(クリックで拡大)
ブラシで掃出し(クリックで拡大)
泥水の排出(クリックで拡大)
泥水溜め(クリックで拡大)

朝食を済ませてから、再び飯館村の現地へ。われわれが菅野さんの家に着くと、すぐさま猫が寄ってきます。宿の朝食の残りを集めてきたものを与えたら、がつがつと瞬く間に無くなりました。彼らも、普段誰も居ない中で、ひもじい思いをして過ごしているのでしょう。この子たちも、原発の被害者です。
この日の作業では、Bの田んぼを4つに仕切って、一つずつ田車除染をしてゆきます。広いままでは、一斉に並んでも泥水をうまく押し出せないためです。また、水の出口付近の仕切りも、直線よりは曲線で仕切った方が泥水を掻き出しやすいのではないかと、あえて変えてみましたら、確かにこの方がスムーズでした。
田車でかき混ぜ、泥水を押し出す。
これを3度繰り返します。泥水は、ものすごい勢いで、崩した土手の一角から流れ落ちて、長い水路を通って、溜め地に流れ込みます。泥水は流れる途中で、泥を落していきます。溝が埋まってしまわないように泥をすくって、土手にしてゆくので、土手がだんだん高くなります。これだけ好い土を流さなくてはならないなんて、もったいなくて涙が出ます。
これを3度づつ繰り返す作業を、4つの仕切りごとに繰り返して今回の作業はおしまいです。あとは、この新方式の前後で、どの程度の除染が達成されたかを見るのが楽しみです。
来週からは、区画Cの代掻き除染、この除染方法の他地区への拡大、そして除染後の田んぼへの作付け等々を行います。本来であればとっくに始まっている農繁期ですが、いいたて再生のための実験農場ではようやく農繁期を迎えます。

4月28日 報告追記(2012-05-08):小川唯史

●除染実験測定結果

田車による表層はき出し除染(PDF 293KB)

4月28日-29日に除染実験を行った田んぼの土壌放射能を測定隊が測定した結果が出ました。
除染後の表面2cmの放射能は、その前に行った小さな実験田(手押し田車による除染)に比較すると高めですが、それでもかなり効果があったことがわかります。まだまだ改良の余地はたくさんありますが、機械化によって実用的な広さでもこの方式の除染のめどが立ったと言えそうです。

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